はじまる

1週目

 

◆東京へ

 25日 練馬の人になる

 いよいよ生活の基盤を東京に移す日がやってきた。午前中に配達されてくる荷物があることになったので、朝早い新幹線に乗る。5時半起床。おやぢの仏壇に「出発」を報告し、眠っているこどもたちに声だけかけて家を出る。練馬の住まいには9時20分頃に着いた。その直後に10時から12時の間ということだったベッドの配達が、すぐにもお届けできそうですという連絡が入る。早めに出てきてよかった。何もなかったという感じのがら〜んとした部屋にベッドが入る。搬入前と搬入後に部屋に傷をつけたりとかしていないかをチェックする書面にサインを求められるなど丁寧な仕事ぶり。買い物をしたときからなかなかしっかりしたオペレーションだと感じていたけれどここでも納得。やるじゃん、○トリさん。

 次の配達は午後からの予定だからと、駅の近くのドラッグストアまで買い物に行く。台所用洗剤・キッチンペーパーから、トイレ用、お風呂用の洗剤、洗濯洗剤から柔軟剤と細々した日用品を買う。新聞をまだ取っていなかったので、日替わり特価とかの情報がないのが残念だが、駅近くにはドラッグストアが3軒もあるせいか、価格はかなり安く設定して闘っているようだ。一消費者としてはありがたいけれど、お店の人は大変だろうなぁとちょっと同情。

 晴れて暑い、真夏日になりそうだ。雨じゃなくて荷物の搬入にはありがたい。両手に袋を提げての帰り道に電話が入る。CATVの会社に頼んでいたネットの接続と固定電話の工事が、午後の予定だったのが午前中にもできそうとのこと。急いで戻って工事に立ち会う。まだ、パソコンが届いていないので接続の確認ができないが、とりあえず業者さんはまずまずの回線速度が確保できたと帰っていった。(あとで測ったら14.7mbsだった)同時に電話も使えるようになった。

 お昼になった。まだ冷蔵庫が届いていないので、昼食は名古屋から持ってきたマクドのクーポンを使う。ふたたび駅前まで歩いていく。氷川台駅前のマクドは休日のこども連れの客で長蛇の列。600円分が500円というクーポンを使って、てりやきチキンフィレオの入ったセットを買ってくる。まだ、テーブルもない部屋の中でかぶりつく。エアコンははじめからついていたので助かった。

 午後は、名古屋から送った荷物が1時半すぎに、こちらで調達しておいた冷蔵庫・洗濯機・電子レンジ・炊飯器が3時すぎに、そして最後にパソコン机が4時すぎに届いた。ばらばら届いてくれたおかげで、あまり段ボールの山に埋もれることなく順番に片付いていった。真夏日の暑さの中をエレベータのない3階まで洗濯機やらチェストやらを運んでくれた配送業者さんに感謝。冷蔵庫の到着が遅かったので冷たいものをお出しすることもできず申し訳ない次第。荷物はそれほど多いわけじゃないし、チェストなどはあらかじめ測ってあったとおり、そのままクローゼットに並べて収まったし、段ボールは貯まったけれどなんとか今晩からふつうに暮らせるようになった。

 夜は、こちらの知り合いが「引越祝い」にきてくれる。これからはこちらの仲間や知り合いになにかとお世話になることになるはず。冷蔵庫はきたけれど、まだ冷えていないこともあるし、食品を買ってきていないこともあって、知り合いと食事に出る。駅の近くの減農薬野菜を使っているというお店で軽く1杯。こうして、東京での生活がはじまった。

▲このページtopへ

 26日 家事もバッチリ?

寝袋での仮初めの宿泊と違って、本拠をこちらに移してのはじめての夜。ベッドの寝心地はやっぱり違う。きのうは朝が早かったし、引越の片づけで動いていたのでキッチリと熟睡できた。

 ゆっくり眠っていてもよかったのだけど7時前には起きだして、きのうのお昼に買ってきたマックのバリューセットについていたポテトをレンジで温めて、コーヒーとともに朝食。キッチンペーパーを敷いてカラッと加熱するところなど、早くもひとり暮らしにも「知恵」を発揮(って、自画自賛)

 きのう勧誘にきていた新聞がきょうから届きはじめた。朝刊のチラシをチェックしてみる。こちらの折り込みのパターンはよくわからないが、日曜日のきょうはパートやアルバイトの情報がたくさん入っていたけれど、食品スーパーのものは1枚だけ。そのスーパーのチラシには「キャベツ68円」の文字が踊っていた。朝食後は、きのう処理しきれず部屋に積んだままだった段ボールをたたんで縛っておく。木曜日まで出せないのがじゃまっけだけどしかたない。その後、掃除機をかける。これから週末はこれがルーティンワークになるのかな。お天気がよいのがありがたいが、きょうも朝から暑い。

 11時少し前、お米をかして(注・かすというのは名古屋弁らしい)炊飯器をセットしておいて、スーパーに買い物に出かける。まず向かったのは「キャベツ68円」のスーパー。ここは平日23時まで営業しているし、地下鉄の駅からうちに向かう途中にあるから、利用することが多くなるはず。ゆっくり、配置を確認しながら店内をめぐる。特売のキャベツを買い、ピーマンも買ったのでお昼は野菜炒めかなと考えをめぐらせる。フライパンは名古屋から送ってあるからね。醤油やソース、塩やマヨネーズなど思いつつままに常備品も買い揃えた。

 会計をすませて外に出たところで、「いけない、まな板や包丁がまだ買ってなかったんだ」と気づく。そこで、もうひとつのちょっと大きな食品スーパーへと足を向ける。ここでは迷わずポイントカードをつくる。日曜日のきょうはポイント3倍デーだった! ここではきゅうりとあすからの朝食用の食パンも買う。よしよしこれで、お昼は炒め物だ・・・と歩いて帰る途中、「サラダ油が買ってない」ことに気づく。あらら、包丁やまな板があっても炒められないじゃん。しかたなく夕食にと思って買った日曜特売の「ジャンボフランク」と「唐揚げ串」に変更。小さいながらIHの「極め炊き」というネーミングの炊飯器はなかなか優秀。1.5合のごはんだけどとてもおいしかった。冷蔵庫や洗濯機は安くていいやと選んだけれど、炊飯器にはちょっと奮発した甲斐があったかも。

 午後は、こまごました日用品を揃えにとなりの駅(平和台)の「ライフ」というスーパーまで歩いていく。住宅街を抜けていく細い道を探検するように歩いていく。環八沿いの平和台は、氷川台と違って大きなお店が多くにぎやかだった。ここではゴミ箱やバケツ、ざるやボウル、トイレブラシなどを買い揃える。両手に袋を提げて、なおかつ持っていったバッグを肩にかけてと大荷物になった。ついでに地下の食品フロアでサラダ油も購入。本日の買い物の予定はこれでほぼ完了。帰って包装を解いてそれぞれの場所にセットして、ついでに汗を流しに買ってきた洗面器とボディタオルを持ってシャワーを。その後、はじめてのお洗濯。夕方近かったけれど、一応ベランダに干してみる。これで、ひととおりの家事を体験したというところかな。

 今まで、何気なく暮らしていたけれど、生活するためには、結構いろいろなものがいるのだということをあらためて感じる。これでも、まだまだ買い揃えなくてはいけないものが、いくつかメモ書きされている。

▲このページtopへ

 27日 はじまる

 フルタイム勤務の初日。夜明けとともに目が覚めたのは緊張のせいか、蒸し暑さのせいか、それとも単なる「年寄り」なのか。もっとも、それから少し眠ったのだけど・・・。名古屋にいたときと同じようにトーストとコーヒーの朝食、そして新聞にゆっくり目を通す。べつに気持ちが焦っていたわけではないけれど、時間を持て余すというか、間がもたないという感じで、早めに準備をすませ、先日の予行演習よりも10分早く8時40分にうちを出る。いくら時間があるといってもワイドショーを見ているのも意味ないしね。

 地下鉄有楽町線の氷川台の駅までは歩いて9分。この時間ともなれば、ぎゅうぎゅう詰めということはない。池袋からの山手線も乗換客が降りると余裕ができる。原宿(明治神宮前)からの地下鉄千代田線もふつうに立っていられた。これならなんとかなりそうだ。
 会社は乃木坂の地下鉄の出口のすぐ上。9時35分に到着。午前中は、きょうから貸与になるノートパソコンのセットアップやら、会社のサーバに接続してグループウエアに参加したりと覚えること多数。机の下に入るサイドキャビネットと、その引き出しの中に入るペンやホチキスなどの備品も届いた。これで、ほんとうに転職したんだなぁというか、I社の一員となったのだなぁという思いになる。とはいえ、契約上はしばらくは「試用期間」である。

 試用といっても、きょうから週次でびっしり詰まっているスケジュールをこなしていかなくてはいけない。当初の予定より、前倒しの進行となった事業もあるし、その関係でうしろにずれた事業もあるが、いずれも停滞は許されない。夕方には、同じディビジョンのミーティング。こちらはまだグループメンバーにシェアしてもらうための資料が整っていない。こんどの週末のミーティングまでにはそれも作らなくては・・・。

 事業のスピード感は相当なものがあるけれど、それをミーティングを積み重ねることで情報を共有しながら突き進めている。フロアにある会議室はびっしりと予定が並んでいる。ブレストの時間を入れておいてと言われて空きを探すが、19時からしか空いていなかったりする。一日があっという間に過ぎ去った。

 退社したのは20時45分。まだ、おなじディビジョンのメンバーは残業していたけれど、初日からあまりハイテンションで飛ばしてもいけないし、通勤にも慣れていないしと、お先に失礼してくる。地元駅からは、これまでずっと使っていた石神井川沿いの道ではなく、ひとつ内側の住宅地の中を縫うように通る細い道を冒険気分で通ってみる。スーパーとかで買い物をせず、真っ直ぐうちに向かうならこちらのほうがちょっと速そうだ。帰宅は21時40分。

 今夜は、豚肉の炒め物と冷や奴ときゅうり。ごはんは昨日炊いたものを冷凍しておいたもの。まぁまぁの夕食かな。「SMAP×SMAP」を見ながら食事をするが、眠るまでの時間を考えると、あんまり食べ過ぎちゃいけないかもしれないと、ごはんの量は少し控える。思ったほど家事は苦痛ではないし、まだ3日目というのに部屋にいると「わが家」という感覚が気持ちを落ち着かせてくれる感じがする。ホッとできる場所ができたのはありがたい。ちょっとだけあしたの準備をしたら早めに眠ろうっと。

▲このページtopへ

 1週目

 正直なところ、はじめての宮仕えは戸惑うことも多い。でも、そこはそれ、年輪を多く重ねてきている者としては、バタバタあたふたせずにさも当然のことというように乗りきりたいのだが、内心ドキドキものの綱渡りもある。これはフルタイム勤務になる前から感じていたことでもあるのだが、仕事の上で知らない英単語(中にはフランス語、ドイツ語が語源のものもあるだろう)が出てくるのだ。この時の対処には、会社員としては「新人」「新入社員」であっても、50歳という年齢が素直さのじゃまをする。

 前後の文脈で理解できるので、まったくちんぷんかんぷんということはないにせよ、やっぱり内心焦るときもある。終わって自分の席に戻るとすかさずネットで検索するわたしだ。へんなプライドなどかなぐり捨てて「えっ、今のなんて言いました?」って聞いてしまえば簡単なんだけどなぁ。

 オフィスのフロアの入退室にIDカードでの認証が必要というのは、最近多くなっている仕組みだろう。これは慣れてしまえばなんてことない話で、だいたい一日中、首からカードを提げているから、さして気にならない。お昼にビルの外に出るときも、そのまま首から提げたままで外を歩いても平気だ。街を歩くとビジネス街だけに結構いろんな会社のいろんな色のストラップが見られるものだ。

 じぶんのスケジュールだけでなく、グループ全員のスケジュール、会議室などの設備予約、来訪客のための応接スペースの確保、座席配置図、内線電話表などがすべてパソコンのグループウエアで運用されているというのも、今やめずらしい仕組みではない。もちろん、タイムカードがわりに出退社の管理も同じグループウエアで管理されている。同じディビジョンだけでなく、社内のすべてのディビジョンやグループの資料やデータもネットワーク上で共有されている。

 その仕組み自体はすぐに慣れたけれど、電話の転送には2度失敗した。ふだんはとなりにいる新入社員の娘がやってくれるのだが、たまたま離席していたりするとわたしがやらなくてはいけないことがあった。なんといっても、新入社員の娘たちは4月入社でここまで3ヶ月間の研修を受けてきている。こちらは中途採用組の中でも、会社勤めの経験のない「新人」なのだ。もちろん、それだからといって許されることではない。失敗をしないようにしていかなくてはいけないのだが、正式に使い方を教わっていないのだから、ちょっとドキドキする。ただし、外線については受けなくてもいいことになっているので気が楽だ。

 データもファイルもネット上で共有していると書いたが、ならば相当にペーパーレスが進んでいるかといえば、意外にそうではない。ディビジョン内の情報共有のためのミーティング、他のグループとのすり合わせなど、あらゆる会議・ミーティング・ブレストに資料として、あるいは報告事項として紙にプリントしたものが使われている。そのためにネットワーク上で共有されているプリンターは、各部署からのプリント指示でいつもうなりを立ている。

 ただ、昔なら「部内回覧」というようなかたちでプリントされていたであろう、広報事項や庶務連絡などは、すべてパソコン上で完結している。これは「今どき」の会社なのだろうね。だから、同じ列に机を並べていても、声をかけるよりも前に社内メールを書いていることが多かったりする。もっとも、これは「口頭」とちがって記録が残るという利点もあるからだけど。

 そんな日常のルーティンワークに慣れなくちゃという1週目早々、じぶんの力不足を思いきり認識させられることもあった。じぶんがこのあと担当する業務について他のディビジョンメンバーと行うミーティング用にと作成した資料に、上長から「朱」が入って書き直しと表現の見直しの指示がだされたのだ。

 その指摘はまったくもって「そのとおり」と言わざるを得ず、その書き直しをすることでよりわかりやすく論点が示されるようになるのは明白だった。〆切までの時間はまだ1日半余裕があったので、「またあしたやれば・・・」と、とりあえずそのまま帰ってくるという選択肢もなかったわけじゃないが、ここは一気に取り組んでしまわないと、今後にもよくないとばかり、遅くまで残って作り直してきた。(これでもまだ完璧という評価にはならず、まぁ、このくらいならと言うレベルという最終評価だったようだ)

 この週までOJTとしてうちのディビジョンにきていた新入社員の男の子の研修成果発表というべきプレゼンに同席する機会を持たせてもらった。上長の指摘はここでも実に的確で、時間に使い方が悪く結果として「時間切れ=切り込み不足」となったことを割り引いても、もう少しアイディアを高め、深めなくてはいけないというような話をしていた。横でその話を聴きながら、これはわたしに向けても言っているのだなと感じていた。

 じぶんが新人研修を受けているときに作ったものなのだけどと「資料作成のしかたやプレゼンのしかた」などの書かれた「Do's&Dont's集」なる資料を上長からいただく。顔は笑っているし、口調にも険しさはないけれど、「いとうさんも早くこれくらいのレベルの仕事をしてもらえるようにならないとね」という言外のプレッシャーは感じる。その前の日には、「考える技術・書く技術」という本も手渡されている。

 そんな1週目の終わりとなる金曜日。上長がお昼を一緒にと声をかけてくれた。「どうですか、ひとり暮らしには慣れましたか?」などとパスタを食べながら話をする。仕事のスピード感と求められる完成度のレベルについていくのは、正直いっぱいいっぱいというのが本音。でも、ひとり暮らしのほうは、じぶんでも意外なほどなじんできた。遅く帰っても食事を作るのは苦じゃない。わずか1週間なのに「マイホーム」というような感覚が芽生えてきている。ギリギリとネジを巻いて疲弊した感じのある頭も脳も、部屋の明かりを灯すとすーっとほぐれていくような感じになるのだ。なんとか、やっていけるかなというわずかな光明が遠くにほうに見えているというところだ。

 この週でOJTを終えた10人の新入社員の配属先が決まり、社内的にもひとつの部門が子会社となってスタートするなど、月曜日から新体制がはじまる。それにあわせて机の配置が変わる。週末2日間でリフレッシュして新体制のスタートをきれいに決めよう。

▲このページtopへ

 

<戻る>       <次へ>