そして奔流のごとく

 

◆部屋探しも簡単じゃない

 5月8日日曜日。昼食後、上京。あしたとあさってと7月から赴任するI社で、事業計画
についてのすりあわせなどをすることになっているので、きょうは前泊して単身生活の
ための住まい探しをしようと考えてのこと。

 はじめは、家具一式がついたマンスリーマンションというのも考えていたのだけど、通
勤時間を考えながら、初めての通勤として許容できる範囲でと検索すると結構な金額
ということがわかる。不動産検索サイトをあちこちまわってみると、ふつうの1Kや1Rを
探した方がよさそうだなと方向転換。勤務地への交通の便の関係で小田急沿線がい
いのかなとネットでいろいろリサーチしていたのだが、小田急の朝のラッシュは殺人的
という話が聞こえてくる。加えて、小田急沿線はもともと住宅として好立地なので家賃
相場が高いと聞かされたりしたこともあって迷いに迷いながらの上京だった。

 のぞみの車中でも、最初の思いを貫いて小田急の経堂の不動産屋さんをめざそう
か、小田急にこだわらずに選ぼうか最後まで迷っていたが、通勤経験のないわたしで
あり、若くもないこともあって、やはり「殺人的」ラッシュは回避しようと決めたのは、多
摩川を渡ってからだった。

 自宅の建て替えの件で相談にのってもらっている会社に教えてもらったサイトで調べ
ておいた渋谷のお店に出かけてみる。ただ、ここは渋谷という土地柄もあり、小田急・
東急などの人気のある沿線の物件が多く、なるべくリーズナブルにあげたいわたしの
希望にはちょっと・・・という感じ。ただ、この会社の池袋店の物件にはちょっと惹かれる
ものがあった。簡単なデータは出してくれたが、細かい情報は待っていたのに届かな
かった。応対してくれた担当者の感じのよさにはちょっと申し訳なかったが、時間もあっ
たので池袋店を直接訪ねてみることにした。

 池袋店。出てきたのは真面目そうだけど、朴訥としているというかセールスらしくなく
言葉数の少ない男の子。この春の新入社員かなぁ・・・。先に渋谷店で物件について
は聴いているので詳細の情報を出してほしいと依頼するのだが、また一からこちらの
希望を聴こうとしてくる。ちょっとかみ合わなかったが、とりあえず見たかった物件の情
報は出してもらう。しばらくして「もし時間が許せば物件をご案内します」という。こちら
はただ前泊するだけだから「ものは試し」と応諾する。

 池袋から高田馬場へ。山手線内の新築物件なのに意外なほど安いので、何かある
なとは思っていたが、まるで迷路のような路地の奥まったところの物件だった。山手線
の内側とは思えない静かな環境といえば、そう言えなくもないが、慣れるまでは毎日
道を間違えてしまいそうな感じ。最初は車で案内しようとしてくれたのだが、迷うこと小
1時間。最後は車を置いて地図を片手に歩いて案内しようとしてくれたのだが、さらに
迷い込む。最後は、しびれを切らせたわたしがたぶんこちらだと思うと角を回らせてよう
やくたどり着いた次第。もともと車は入ってこられないところだった。

 電気工事が完了していないので、真っ暗な中で間取りを見せてもらう。池袋を出ると
きにはもうすでに陽が落ちていたのだから、懐中電灯くらい用意してこなくちゃダメじゃ
ないの?ってところ。その営業マンくん。迷ったあげくに行き止まりの路地に突っ込んだ
際に、リアのバンパーを思いっきりへこませてしまったし、最後、わたしに必要書類を渡
そうとする際にも何度かお店に連絡を入れて指示を仰がなくちゃいけなかったり、カバ
ンの中がぐちゃぐちゃだったりと、だいじょうぶかなぁって他人事ながら先が心配な営業
マンくん。「がんばってね」ってエールを送りたい気分。

 あちこちのサイトをめぐってバーチャルな不動産物件探しはしてきたし、それなりにに
わか知識は蓄えたつもりだけど、リアルな不動産屋さん訪問と、物件紹介をうけたりす
ること、そしてはじめての下見は、意外に神経が疲れるなぁ・・・というのが正直なとこ
ろ。

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 翌9日月曜日。打ち合わせを19時頃に切り上げさせてもらって、きのう紹介だけしても
らっていたもうひとつの物件の下見に出かける。もし実際の勤務がはじまったら19時に
退社できることはないだろうけれど、帰宅のシミュレーションという感じか。勤務先のビ
ルのすぐ下の駅から地下鉄で2駅、JR山手線で6駅、ふたたび地下鉄で4駅。電車に
乗っている時間が40分弱。駅から歩いて9分。閑静な住宅街の中に建設が進められて
いて、ちょうど6月から入居が可能というまっさらの新築物件である。

 きょうは不動産屋さんの同行がないので、外から見ることしかできなかったけれど、
間取りは昨日見てきた高田馬場の物件とよく似ている。同じ1Kでも、キッチンがちょっ
と広いのと、収納スペースが少し大きいはず。3階建ての3階の角部屋がまだ空いてい
るというのだ。管理費を加えてなんとかここまでと決めている家賃の予算ギリギリとい
うところ。

 今まで職住が同一という環境で、通勤の経験がまったくないわたしとしては、2度の
乗り換え、約1時間の通勤時間というのが毎日のこととなると果たしてどんなものかと
いうのが想像がつかないし不安でもある。ただ、5〜6分余計に時間はかかるが、地下
鉄だけで1回の乗り換えという通勤経路も可能ではある。

 住環境は悪くなさそう。ちょっと人気の少ない川沿いの道を歩かなくてはいけない
が、街路灯はある。駅前には食品スーパーが3つあって、そのうちのひとつはかなりの
大型店で深夜1時まで営業しているらしい。コンビニも松屋もマクドもある。まぁ、食生
活の面では苦労はしないだろうなと思う。

 下見の帰り、きょうは夕食のついていない素泊まりなので、駅前の松屋で味噌煮込
みハンバーグ定食を食べる。このところ夜は少食のわたしなので、くどくてもたれること
もたれること。もっと軽いものにすればよかったと、地下鉄に乗ってから後悔したけれど
後の祭り。ちなみに本日は3食ともに外食。朝はおにぎり。昼はサンドイッチだった。松
屋の定食には簡単なサラダがついていたし、お昼は野菜ジュースを摂ったけれど、ビタ
ミンは不足かなぁ・・・。でも、7月からは毎日がこんな生活になりそうだ。

 知り合いが中央線沿線の物件を紹介してくれるよう手配してくれているので、それも
比較してみようと思っている。5月は今回を含めて業務引継やら事業計画案の策定な
どでたぶん4往復することになるはずだけど、不動産屋さんまわりの時間がとれるかど
うかは微妙だ。6月下旬には引っ越してこなくちゃいけないことを考えると、あまり悠長
なことはいっていられない。

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「宮仕え」スタート

 5月9日月曜日、東京で迎えた朝。昨夜ははじめての不動産屋さんめぐりで疲れてい
たような気がしていたのだけど、けさは夜明け前から何度も目が覚めた。枕が変わると
と眠れないというほどヤワではないはずなのだけど、やっぱり、あたらしい仕事の実質
的なスタートということで緊張していたんだろうなぁ。

 7月からの勤務先となるI社へは、時間よりかなり早く着いた。10時までに出社しても
らえばいいといわれていた(フレックスで10時からがコアタイム)のだが、泊まっていた
ホテルから15分もかからなかったし、早く目が覚めたことで、朝シャンとかしてもまだ時
間が余ってしまったからなのだ。そこで、先月来たときとは逆方向へ散策してみる。道
路の向こう側にはファミマ、しばらく行くとドトールがあった。もうちょっといったところには
たしかスタバもあったはず。名古屋と違ってそこかしこに喫茶店があるという環境にな
いので、コーヒーは社内のベンダーでということになりそうだ。

 実質的に宮仕え初日という感じとなったこの日は、今後所属することになるディビジョ
ンのこれまでの事業の推移と現況、そして今後の進め方の説明を受ける。そして、午
後には、同じディビジョンの中で新しく立ち上がるグループの今後の事業の進め方につ
いて外部のアドバイザーとブレスト。一応、そのあたらしいグループを受け持つことにな
っている。

 そして、それを受けて会社として7月からの新年度の事業計画に、どういう事業の画
を描くのかの方向性を示す手がかりを書き出すようにといきなり宿題を課せられた格
好。机だけはもう用意されているので、社内のベンダーでいれた濃いめのブラックコー
ヒーを飲みながらテキストエディターに箇条書きをはじめる。

 何年か先までの事業の画を描きながら、同時に近々にしなくていけない作業を詰め、
しかもスピードも走りながらの的確な判断をも求められるという感じで、「街のお化粧品
やさん」とはまったく頭の引き出しの使い方が違う。しかも、いままでならじぶんですべ
てが完結していたものが、グループで共有、ディビジョンで共有となれば、計画・実行・
検証とキチンとしたステップを踏んでいかなくてはならない。単に「思いつき」や「ひらめ
き」だけではいけないのだ。わたしの中にあるさして多くない引き出しをすべて開けひろ
げて、出せるものはすべて出し切っていかないとついて行けなくなりそうだ。

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 明けて10日、火曜日。きのうは1日フルに「宮仕え」を経験した後に、住まいの下見
に往復したりで、結構疲れていたはずなのに、神経が高ぶっていたのかなかなか眠れ
なかった。そのわりに、けさも5時過ぎに目が覚め、まだ早いからと二度寝をしようとし
ても、いつもならぐっすりという感じなのになかなか眠れず、テレビのニュースをつけな
がらベッドの中でゴロゴロして過ごしていた。

 そんな調子で、きょうも朝風呂に入ってもまだまだ時間を持て余してしまい、きのうと
同じく10時に出社すればいいと言われていたものを、なにせ、徒歩1分のとなりの建物
に部屋を取っていてくれたこともあって8時20分にはオフィスに着いてしまった。フロア
にはひとりだけ出勤してきていただけだった。

 ワンフロアで100人近く人が働いているのだけど、9時半を過ぎても3人くらい。フレッ
クスのコアタイムの10時に出社という人がほとんどだった。全体に夜型にシフトしてい
るということなのだろう。そういえば、宿泊した部屋からこのオフィスの窓が見えたのだ
が、深夜0時を過ぎても灯りがともっていた。

 本日も結構ギリギリとネジを巻いてという感じで、ない知恵と経験値をしぼりだすとい
う感じ。きのうからきょうお昼までかかってまとめ上げた方向性について、ディビジョン
のオフィサーと午後いちばんにミーティング。おたがいの意見をつきあわせることで、こ
んどのグループの方向性が何とか少し見えてきたかなぁというところ。

 そのあと、わたしがいるタイミングに合わせて設定してもらったグループの定例ミーテ
ィングに参加。きのう感じた計画・実行・検証・管理という仕組みをメンバーで共有しな
がら事業を遂行していく、「会社」という組織では至極あたりまえの作業がとても新鮮に
感じられたしなかなかにして刺激的だった。もっとも、7月からはじぶんもそのマネジメ
ントをしなくちゃいけないのだと思うと、もっとギリギリとネジ巻きをしなくちゃいけないな
ぁと戦々兢々。

 今回の2泊3日の上京は「はじめて」づくし。今までのふだんの1週間分くらいの中身
の濃さという感じ。あいかわらず神経は高ぶっているのか、いつもは1時間くらいは眠り
に落ちる帰りの新幹線も名古屋までパッチリだった。あっそうか、「お疲れさん」のビー
ルを買わなかったからかな?

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そして「天王山」を超える

 さて、自宅の建て替えの話。ジェットコースターのような気持ちのアップダウン、感情
の大きな振幅・・・。とてもとても書き尽くせない密度の濃い数日を過ごした。 いちばん
の障壁は思わぬところにあったのだ。突き詰めればおなじところにたどり着きたいはず
なのに・・・と、「何故?」という思いはぬぐい去れない 。きっとずっと心の隅っこに小さく
だけど住みつづけるはず。でも、とにかく「ベター」な選択をとったわたしたちだ。母とわ
たし(単身赴任でいなくなるけれど)と妻とふたりのこどもの5人の「伊藤家」のあたらし
い家が建つことになる。

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