「秋田内陸リゾートカップ 100kmチャレンジマラソン」完走記 1999

きたれ鉄人! 花街道への誘い・・・

秋田内陸リゾートカップ100kmチャレンジマラソンコース図
                    
<提供>大会公式ホームページ

         
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1999年
9月25日(土)


 気になっていた台風は、朝には駆け足で北海道まで進んでいた。大会のスタート時間に合わせてこのところつづけていた5時起きで見たニュースにホッと安堵の息をつく。秋田はまだ吹き返しの風が強そうだが、飛行機が名古屋を飛び立つ10時には、それもおさまっていることだろう。

 快晴の名古屋空港を飛び立つANAの397便には、何人かの「秋田内陸」仲間とおぼしき姿も見えた。新潟沖まで順調だった飛行だったが、雲が増えてきたかなと思うとともに「ベルト着用サイン」がつき、少し上下に揺れをくりかえす。着陸態勢に入ると窓の外は乳白色の雲に覆われ、雨粒がガラスを叩いている。稲光も見えた。こんな時は窓際席を悔やむ。無事ランディングバーンにタイヤが接地した頃には、空から明るい秋の光が差し込んできたが、不安定な天気が気にかかる。

 秋田市内へ向かうリムジンバスの窓の外の風景も、雨ありまぶしい陽射しありとめまぐるしく変わったけれど、秋田の市街地に入ってからは、秋晴れが定着したようだ。稲庭うどんの昼食をすませ、「こまち」で角館へ。「帰ってきた」という懐かしさといえるような気持ちになる。昨年は参加できなかったので2年ぶりとなるが、駅から宿への道の風景はまったく変わっていない。

 受付・前夜祭は例年と変わらない段取りだったが、唯一ちがったのは参加申込時に書いた短い文章が、「コメント賞」をいただいたこと。便箋・レポート用紙といった賞品だったがうれしかった。大会前夜は、ゼッケンをつけたり、ウエアの準備をしたりしながら、飲んで騒ぐこともなく淡々と過ぎていき、9時には部屋の電気が消えた。

9月26日(日)

 夜中1時前くらいだったか、どしゃぶりの雨音に目が覚める。このところ台風がきたり、雷雨があったりと、名古屋の9月としては記録的に雨の多い月を過ごしているが、この雨の降り方もハンパじゃなかった。あとスタートまで4時間。雨は上がるだろうか・・・ 

 3時起床。雨音はしない。雲の切れ間からわずかに星ものぞいているようだ。4時過ぎ、宿を出る。ひんやりとした空気が、「よぉし、行くぞ!」と気持ちを奮い立たせてくれる。眠気はない。からだのどこも痛くはない。空からは雲が取り払われていき、オリオン座、冬の大三角、そして、中秋の名月を過ぎたばかりのまん丸な月も西の空にその姿を見せた。会場のアナウンスが、さっきまで出ていた「大雨・強風注意報」解除を告げている。ことしこそ、快晴のもとでのレースになるかもしれない。

 ことしの目標は「サブ9」だ。しかし、2週間前に野辺山を走ったことはここ秋田にピークをもってくるのには、スケジュール的に無謀だったようだ。野辺山での走りは、時間内完走をめざす仲間との並走だったから、平均してキロ8〜9分というペースだったし、66kmまでしか走らなかったので、それほどダメージはうけていないつもりだった。不整地の激しい上り下りに、帰ってきて2〜3日は、いつにない筋肉痛もあったが、秋田の前1週間の走りでは、とくに疲労感も痛みも感じなかったので、あの66kmは、かえって「いいロング練習」になったというくらいに考えていた。

 走り出しは順調に思えた。気持ちのよい夜明けの空気にさわやかに走り出せたような気がしていた。それでも、はじめの5kmに30分かかっていて、体感よりは時間がかかっていた。夜が明けてきて、見慣れた田園風景がひろがってきた。西の空には大きな月がその姿を隠そうとしている。変わって東の空から、まばゆい輝きとともに日が昇ろうとしている。10kmの最初のエードで、水を口に含む。すーっとのどを通る冷たさが気分を引き締めてくれる。やがてなだらかに気づかない程度に徐々に上りはじめる。この得意にしていたはずの前半のゆるやかな上りでも、目標の「サブ9」達成に求められる5km25分以内になかなか突入しない。とうとう20km〜25kmでわずかに切った以外は、25分台がやっとという状況のまま、前半のヤマ場「大覚野峠」が近づいてくる。

  5km  30:23
10km  26:26      56:49
15km  26:52    1:23:42
20km  25:03    1:48:45
25km  24:52    2:13:37
30km  25:11    2:38:49


 戸沢の駅に停車しようとスピードをゆるめながら、秋田縦貫鉄道の列車が背後から「がんばれ〜っ」の大声援とともに近づいてきた。思いっきり右にからだを傾け、その声の大きく手を振っている間に35km地点を通り過ぎた。やがて、「秋田に雨の降らないことはない」のジンクスを何が何でも達成しなくてはというように、雲行きがにわかに怪しくなると、36kmあたりからぽつりぽつりと雨になり、時に大粒の本降りをまじえながら、大覚野峠を上りきるまで降り続いた。この雨で身体がすっかり冷えてしまった。エードであたたかい飲み物がほしかったが41km過ぎ、46kmの下りの途中のそれぞれのエードでも、48kmの着替えポイントでもそれは叶わなかった。

 長い下りはいつものように脚に堪える。セーブしようとするとかえって膝に響いてくる。雨は上がったが、下りに入ってからは、谷底から吹き上げてくるような強い向かい風が足元を襲ってくる。ゼッケンと名前を呼んでの声援に手を大きく上げて応えながら、50km地点(50kmの部スタート地点)を4時間24分で過ぎたが、その後少し間隔のあいたエードが、ひどく遠く感じられた。じりじり下っているので、50km〜55kmは、25分30秒前後で走っているのだが、ここでは体感的には28〜29分くらいに落ち込んでいる感じがしていた。下りで疲弊したせいもあるのだろうが、がっくりとストライドが落ちてきた。左足首の前側に今まで感じたことのないしびれるような違和感がひろがってきている。初めての感覚に故障の予兆を感じ不安が広がる。

 このあたりで「サブ9」と自己ベストはあきらめた。まだ可能性が消えたわけではなかったが、このまま5kmを27分で維持していく力はないと判断した。そして、絶対に「完走」するんだ! へと気持ちを切り替えた。峠を過ぎたあとは、すっかり秋の青空と陽射しが戻り、たわわに実ったあきたこまちの稲穂が黄金色に輝いている。ことしも沿道の応援は素朴であたたかい。そこかしこに椅子を出したり、シートを引いたりして、走り行くわれわれに声をかけてくれている。今年も、そのひとつひとつに「ありがとう」と応えて走ることができた。すぐそばの左側の人だけでなく、右側にいる人たちにも手をあげてその声に応えながらの走りをつづけていく。こうしてまわりにも支えられて、ゴールへゴールへと気持ちは前へ前へと進んでいくのだが、そのわりに脚は思うように前に出ない。呼吸が苦しいわけでもなく、ガス欠でもないと思うのだが、とくに下り坂は思うに任せない。

  35km   25:48    3:04:37
  40km   26:48    3:31:26
  45km   27:04    3:58:31
  50km   25:30    4:24:01
  55km   25:31    4:49:32
  60km   27:34    5:17:07


 左に折れて、阿仁合の町に下る手前で、また秋田縦貫鉄道の列車が後ろから追いついてくる。こどもたちのにぎやかな「がんばれぇ〜」の声が青空にこだました。阿仁合の駅前のあたりはまた応援が多くなる。エードで一息つくと急な上り坂があって、上りきったところが「北緯40℃」のゲートがある写真撮影ポイントだ。上りでひとり抜き去って、左右の声援に応えつつ、笑顔でゲートをくぐった。(はずだ) このあと再び国道に戻るまでは応援が途切れないので、気が抜けない。町を抜け再び国道に合流し、少し道が下り始めた頃から両足の腸骨(大腿骨と腰骨の関節のからだの外側)がきしんだようにしびれだす。

 人の姿の見えない田園地帯は、気持ちが切れそうになる。久々の応援の声に微笑み返した後ですぐにしかめっ面になったりする。80kmの手前の道路拡張工事の吹きっさらしでは、ますます向かい風が強くなり、走るという気持ちを萎えさせようとする。前を走っていたランナーがよろけて、工事の看板にぶつかっているのが遠くに見える。このあたりまでくると、まわりのランナーもばらけてきていて、かなり遠くの後姿を目で追う展開になっている。後ろからの足音もなかなか聞こえてこない。抜きも抜かれもしない時間が長く続いている。それでも、お互いのペースはほとんど変わらないので、その姿が消えていくことはない。ほぼ5kmごとのエードでは追いつくものの、それと相前後して出ていかれたりで、順位が変わることはない。比較的走れる上りにかかると少し差が詰まって、その姿が大きくなるものの、足首への衝撃がつらい下りでは逆にその姿が遠く小さくなったりしながら、なんとも言えぬ連帯感のようなものを感じながら、前後3〜4人があうんのグループを築きつつ、少しづつゴールを目指していく。

  65km   28:55    5:46:02
  70km   29:05    6:15:07
  75km   28:49    6:43:56
  80km   30:35    7:14:32


 気持ちを「完走」に変えてからは、エードでの滞在時間が長くなった。痛みだしそうな脚の感覚をおばちゃんたちとの会話で紛らせていた感じだ。それでも、ホントにへばったときは、一度止まると、次に走り出すのがいやだという気持ちになるのだが、今回は、脚を少し休め、おばちゃんと少し会話を交わし、自慢の漬物やら、特産のマルメロやらを口にすると、すっとスタートが切れた。しかし、すぐに脚が重くなるのだが・・・いつももっともつらい、中ほどのエード以外、何もアクセントのない田圃の横の一本道(82km〜87km)は、今回はそれまでもつらかったので、とくにがっくりとはこなかったが、ひきつづき強い向かい風(横風)に阻まれて、道路から歩道へというほんのわずかな段差ですらきつく感じられた。かなり前を走っていたはずのランナーがエードの前で歩道の縁石に座っているのが見える。数百メートル先なのにそんな光景が見てとれる。しかし、一向にそれが近づいてこない。ようやくエードが目の前になったとき、すぐ前を走っていたランナーはエードを出て行ったが、その彼は、私の到着と入れ違いにようやく意を決して出て行った。エードのボランティアの人が双眼鏡で後続を見ているがず〜っと向こうまでその姿はないという。その後3kmほど先の上り坂で、エードで座っていた彼に追いつき交わして前に出た。べつにどうでもいいことだが、ここでひとつ順位が上がった。

 合川のJAの前のエードを過ぎ、右に折れ急な坂をのぼるとやがて90kmだ。ちょうどそこに秋田内陸縦貫鉄道の踏切がある。すぐ前を走っていたランナーが、その手前の給水ポイントで水を飲み、走り出したところで、警報機が鳴り出した。私はもう水は十分なのでそのまま歩を進めていく。1日に14往復しか通らない列車との遭遇だ。1両だけのディーゼルカーが軽快に走り抜けていった。3回目の秋田にして、初めての経験。思わぬ事態で追いつかれることになった先行ランナーは私の顔を見て苦笑い。私は、ボランティアの踏み切り係のおにいさんと「こんなこともあるんだねぇ」と笑ってしまう。1両の列車の通過はなんともあっけなく、すぐに遮断機が上がり再び走り始める。

 そこからあきた北空港までの上りは、先ほどの踏み切りの椿事で追いついた青いシャツのランナーのすぐ後ろにぴったりくっつくようにして走る。決して意図したわけでなく、抜き去るだけの余力が私になく、置いていくだけの力が相手になかっただけのこと。1日3便しかないあきた北空港からの航空機の離陸を目にする。きょうは、珍しいものに恵まれているらしい。そのさきで道端に座り込むランナーがひとり。「大丈夫?」と声をかけると、「ちょっと休憩してからいきます」との答。ここでまたひとつ順位があがる。あきた北空港への取り付け道路に入り道幅が広くなった。と同時に滑走路下のトンネルに向けて大きく下る。ここで青いシャツのランナーが、一気に差をひろげていった。追いかける気力も脚力ももうなかった。トンネルに入ったところで、ふわっと貧血のような感じがして100mほど早足歩きに変えた。再び走り始めたところで、青いシャツのランナーが振り返ったのが見えた。もう追いつける距離じゃなかった。トンネルの出口近くで95km。いよいよその先で鷹巣の街が見えてくる。

  85km   32:53    7:47:25
  90km   31:12    8:18:38
  95km   31:51    8:50:29


 秋空の向こうに鷹巣の市街地が見える。何とかここまでやってきた。もうあとは、勝手のわかったコースだけに気分が楽だ。しかし、一気の下りは足首にも腸骨にもビンビンと響いて、慎重にならざるを得ない。風の音の向こうから軽快な足音が聞こえてきたかと思うと、あっという間に横をすりぬけていった。このところでは見たことのないウエアのランナーだった。後半そして下りが大好きなのだろうか。もうすっかり小さくなっていた青いシャツのランナーにもあっという間に追いついてそして抜き去っていった。それにしてもさっきのふわっとなった症状はなんだったのか。トンネルという閉所がさせたのか、それともガス欠? 今はその痕跡もないが、続いた下りでふんばった脚を休めようと、いつもは通過してしまう最後のエード(ゴール手前3.2km)にも立ち寄った。「あんた、はよいかんでいいのかね」と言われたが、「いやぁ、おなかがすいちゃってさぁ」と言って、漬物を食べお茶を飲んで、バナナを2切れほおばってから最後の走りに出た。橋を渡るとあと2km。ほどなく市街地に入るとあと1km。商店街に入って「愛知県の伊藤さんが商店街に入ってきました」の放送で、道の両側から拍手がよせられるうれしさをかみしめながら、駅の手前の角を曲がるとのこりは300m。勝手を知ったコースは気持ちが楽だ。商店街の両側からの応援に首を右に左にふりながら応えて走っていくうちに、脚の痛みはどこかへ消えていた。そして、大太鼓の勇壮な響きに迎えられてゴール。両手を大きく突き上げてテープを切る。思わず時計を止めるのを忘れていた。

  goal   29:24         9:19:53   38位

 目標の「サブ9」も、自己ベストも出せなかったが、ぼろぼろよれよれになってのレースじゃなかったから、沿道の声援には全部「ありがとう」ってこたえられたし、幸せな1日だった。やっぱり、秋田は記録を狙ってしゃかりきに走るにはもったいない。ゴールしたら、すぐにアイシング用のプールに脚をつけようと思っていたのに、それをすっかり忘れているくらいうれしいゴールだった。

 これでしばらく、ウルトラはおやすみ。大会そのものもちょっとおやすみすることにしよう。暑い夏もずっと走りつづけてきたから・・・

 ちなみに青いシャツのランナーは、神奈川の角田さん。9:17:32でゴールされ、37位でした。

                 コース高低図

                            <提供>大会公式ホームページ
区間タイム 通算タイム ピッチ ストライド
5km 30:23 189 87
10km 26:26 56:49 193 98
15km 26:52 1:23:42 189 98
20km 25:03 1:48:45 191 105
25km 24:52 2:13:37 196 102
30km 25:11 2:38:49 193 103
35km 25:48 3:04:37 194 100
40km 26:48 3:31:26 195 96
45km 27:04 3:58:31 192 96
50km 25:30 4:24:01 194 113
55km 25:31 4:49:32 194 101
60km 27:34 5:17:07 186 97
65km 28:55 5:46:02 174 99
70km 29:05 6:15:07 184 94
75km 28:49 6:43:56 185 94
80km 30:35 7:14:32 180 91
85km 32:53 7:47:25 179 85
90km 31:12 8:18:38 185 86
95km 31:51 8:50:29 184 85
goal 29:24 9:19:53 185 95
●本完走記の作成にあたり、100kmマラソン公式ホームページよりコース図・高低図の使用の許可をいただきました。快諾いただきましたことに心より感謝いたします。

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